東日本大震災被災者への施術について 「鍼灸柔整新聞」より
今般の東日本大震災及び長野県北部地震に関連する医療保険、健康保険の取り扱いについて、医科本体を主体としてたくさんの事務連絡が厚生労働省から発出された。被災者の柔道整復療養費の取り扱いについては、4月1日付の厚労省保険局医療課の事務連絡により、「被災者が被保険証を、受領委任払いを取り扱う施術所に提示できない場合においても、保険による施術が可能である」、「被災地の施術所は、住宅が全半壊した方などからは受領委任払いに係る一部負担相当額を徴収せず、これを含めて全額(10割相当分)を保険者等へ請求することができる」という旨が都道府県等に連絡された。これは医科本体の取り扱いと同様の措置であり、柔整療養費の受領委任の取り扱いが、患者保護の見地から実質上は現物給付化されていることを考えると当然のことである。
一方、鍼灸マッサージ施術の療養費には受領委任の取り扱いが公然とは認められていないので、柔整のような事務連絡は発出されていない。この緊急時に、鍼灸マッサージ業界としては、このままでいいのだろうか。震災直後は被災者に対する「ボランティア」施術が求められるだろう。しかし、一定の時間が経過して被災地がある程度落ち着いたなら、療養費での施術が被災者に行われても当然だと思う。この場合、医師の同意書添付を省略できないものだろうか。
周知のとおり、鍼灸マッサージの療養費請求に医師の同意書添付が求められるのは、昭和25年に発出された保発4号保険局長通知による。今回の災害は、例えば健康保険の適用除外申請等においてもまさに“やむを得ない場合”にあたるとして、様々な措置が執られている。被災者の療養費請求において、この保発4号の「緊急その他真にやむを得ない場合」として、医師の同意書添付を省略することは認められないだろうか。厚労省に確認すると、「あくまで医師の同意書は必要。ただし、保険者の判断により認める場合もあり得る」ということだった。大震災による被災が、鍼灸マッサージ施術を受けたい患者にとって“真にやむを得ない場合”に該当するかどうか、行政は判断を避けたが、少なくとも保険者が認めれば保険者判断を優先するということだ。仮に、“真にやむを得ない場合”として医師の同意書添付省略を認める保険者があれば、施術者は患者の症状や施術内容等を、保険者に後日きちんと説明できるように施術録に残しておくことが肝要だ。これにより保険者も納得することだろう。
しかし、いくら行政が「保険者判断」としても、鍼灸マッサージの療養費給付増大につながる判断を、保険者がするとは思えない。
2011年4月25日 第903号 鍼灸柔整新聞「医療は国民のために79 上田 孝之」より転載
掲載日/最終更新日 : 2011年5月13日(金)